11、『ちょっと用事思い出したから帰るわ』

こんちゃっす。相変わらず屋上で時間を潰している要です。とは言っても今日は単なる暇つぶしでもない訳で、正確にはアレを見に来てんだよ。ほら、えっと、なんて言うべきなんだこのイベントは。

『山本の入ファミリー試験を始めるぞ』

あ、そうそう、武の入ファミリー試験イベント。

……あー、言い忘れてた。この前っていうか武の電話帳に俺の連絡先ぶっ込んだ日なんだけど、夜になったら向こうからメールが来てさ。去り際に呼び捨てにしたのバレてて大喜びされたというか、親友だぜ! とか始まったというか……うん、めちゃくちゃ仲良くなった。

不安はある。というか不安しかない。友達すっ飛ばして親友ができたことは嬉しくない訳じゃないが、いやあこれで武がポロッと俺の名前をだそうものならリボーンにインプットされやしないかとヒヤヒヤものなんだよな。

ところで、さっき屋上にいるとは言ったが、原作で沢田と武が落っこちたあのフェンス、事件の後に生徒会がさっさと新しいのに取り替えたらしいぞ。おかげ様で寄りかかっても安心、安心。雲雀との勝負に幸か不幸か勝っちゃったせいで邪魔もされないから楽チン、楽チン。

……そういや風紀委員のことなんだけどさ、返事するよりも先に強制的に入れられたわ。学ランがな、何故かサイズがぴったりで恐怖しかないんだ。腕につけてる風紀委員の腕章も違和感しかなくて外したくてしょうがない。

ともかくだ、インターホンで起こされると目覚めが悪いことはよくわかった。あの時は何事かと思ったぞ。通販どころかネットすらマトモに使った事ねえってのに速達でダンボール箱が届いたんだぞ? 開けてみたら学ランと腕章と手紙が入ってんだぞ? 恐怖しかないわ。

ちなみに以下が手紙の内容。

〈おはよう生意気な小動物。荷物は確かに届けたよ。まさか中身を確認しないなんて非常識はしてないだろうから、言いたいことはわかるよね。反抗したら即咬み殺す。そのつもりでいなよ。僕の電話番号とメールアドレスは裏に書いてあるから登録しておくこと。風紀委員の連絡用だから忘れたら容赦しないよ。必要があれば副委員長の連絡先も登録しておいてね。もちろん自分で聞きに行きなよ。そこまで教えるほど甘やかすつもりもないから。
追伸。風紀委員の登校時間は5:00。君の教室の前で待ってるよ。遅刻したら咬み殺す。
雲雀恭弥〉

色々とツッコミを入れさせてくれ頼む。まず出だしからムカつく。あとこの察せスタイルがムカつく。それと無駄に朝早いのがムカつく。

結果から言うと、学ランと腕章の存在はマイナス面ばかりではないどころかプラス面が多かった。教師は黙るし生徒は道を開けてくれるし俺がいる場所は必ず静かになるし。極めつけは長谷川の青ざめた顔だな。それが見れただけでも儲けもんだ。ちなみに担任教師である新島は大爆笑していた。もちろんからかいの意味で。あいつは俺をなんだと思ってるんだ。

……だいぶ話が逸れてしまったな。今って何の話をしてたんだっけか。あ、武の入ファミリー試験か。

『そのファミリーってなんだ? つーか、なんで俺?』
『ご、ゴメンね山本、なんか変なことに巻き込んじゃって』
『なんかよくわかんねえけど、ツナが関係してんのか?』
『う、うん、まあね……』
『じゃあいいぜ。俺、ツナに赤丸チェックしてるからな♪』

お2人さんの仲は宜しいようでだいぶ安心しました。俺が自殺を阻止しちまったもんで仲良しイベントが消えちまったかと思ったけど、この様子ではそんなことも無いらしいな。

『これで要がいたらもっと面白そーだな!』

おいちょっと待とうか山本武くんよ。どうしてそこで俺の名前を出したんだ? 今の流れで俺を出すのは些かおかしくないか? お前の中でのいたら楽しい人の優先順位はどうなっているのかな!?

『え、霜月さん? ていうかいつの間に名前呼び……』
『クラスメイトか? そいつはいねえがファミリーはおもしれーぞ』
『そうか? んじゃ、やってもいいぜ』

恐れていた事態が現実となっちまったぞコノヤロー。今の一連で名前をインプットされてないと願うしかねえな。された時点で勧誘は確定だな。そこまで来たら最後、入る入らないは別として目は付けられる。一生付けられる。やだよ、雲雀どころかリボーンにまで監視されながら生活すんの。地獄かよ。

なんやかんやと余計なものは挟んだが、リボーンの隣に長谷川がいることはさておいてほとんど原作通りの流れで入ファミリー試験は始まった。

説明を面倒くさがるなら、内容も原作通りだ。ナイフを投げてボウガンを放ってランボが乱入して10年バズーカで大人になって雷撃の角 エレットリコ・コルナータ 発動して煽られた獄寺がダイナマイト投げて最終的には大爆発。武の大活躍で沢田共々無事助かって武はボンゴレの一員になりましたっと。

常々思うんだがな、こんなに騒がしいのに生徒はおろか我が風紀委員長様は気づいていないのだろうか。それともあえて無視しているんだろうか。……いや、後者は有り得ないな。かと言って木の葉が落ちる音でお目覚めになるあいつが気づかないってのも変な話だ。

謎が深まった。

『山本、さっき言ってた霜月要って奴のこと紹介しろ』

おいチビ介、今なんて言った。ふざけんな却下だ。

『ん? 別にいいけどよ、多分会ってくれないぜ』
『なんでだ?』
『こういう集まりとかって苦手そうだし』

だからお前はその勘の良さをやめてくれ心臓に悪い。

『それでも顔合わせくらいはできるだろ』
『んじゃ、あとで聞いてみるな』

よし即答で断ろう。俺はお前と会いたくない。わざわざ沢田の相談を突っぱねてまでフラグをへし折りに行ったんだぞ、頼むから関わるな。

数分後に送られてきたメールに即行でお断りメールを送りつけた俺は何も悪くない。

†‡†‡†‡†‡†‡

「ツナ、ちょっといいか」
「ん、何?」
「霜月って奴のことなんだが」
「ああ、霜月さん? あんまり迷惑かけないであげてよ。山本も言ってたけど、こういうのに巻き込んじゃいけないと思うし」
「どういう事だ?」
「どうもこうも、一般人をマフィアに巻き込むこと自体がおかしいからな!?」
「で、霜月って奴のことなんだが」
「無視かよ!?」
「お前が一番詳しそうだから教えろ」
「ヤだよ。確かに俺だって山本みたいに霜月さんと仲良くなれたら凄く嬉しいし母さんとだって仲がいいみたいだから羨ましいけど……なんて言うか、色々と次元が違う人っていうか、感性が違いすぎるっていうか」
「だったら同じ所まで引きずってくればいいじゃねえか」
「ダーカーラー、それをしたくないんだってば! 俺あの人のことなんか苦手なの!」
「それが本音か」
「あっ」

†‡†‡†‡†‡†‡

武の入ファミリー試験から数日が経った。意外なことにリボーンからの接触は全くといっていいほどに無い。メールで断ったとはいえアイツのしつこさから考えれば1回くらいは強制的な接触があるかと思っていたんだが……。身構えていた分だけあった拍子抜けでもある。沢田と武にも普段と変わった様子は特にない。

……と、思っていたんだがな。

「ねえ霜月さん、今日の放課後って暇かな?」
「……なんで」
「よかったら俺の家に来ない……?」
「急にどうした気持ち悪い」

あからさまに誘われたぞ。ついに来たかリボーンからの強制勧誘。

「あのね、母さんが『またお茶したいから呼んで』って言ってて」
「奈々さんがねぇ……」

苦笑いで言われると嘘がバレバレなんだが沢田本人はそれに気づいているのだろうか。いや多分気づいてないなこれ。

さてどうしようか。リボーンの仕業だとわかってノコノコ家に行く気には到底なれない。かと言ってここでも断れば逆になにか裏があるんじゃないかと勘ぐられて余計に面倒なことになったりはしないだろうか。さすがに奈々さんが呼んでると言われて断るほど俺と沢田の仲が悪いわけでもない。武からのメールは不自然だから断ったが奈々さんからの誘いは交流がある身としては行くだろうというのが不自然のない行動か?

困ったもんだな。逃げも隠れもできないって正しくこの状況のことを言うんだろうな。腹を括るしかないわけだ。

「ま、奈々さんがそう言うなら行ってやるよ。越してきてすぐに世話になってるしな」

少々気は引けるがな。

「おっなんだ、ツナん家行くのか? 俺も一緒に行っていいか?」
「山本! う、うん、もちろん!」

武も一緒かぁ……まいっか。

そんな訳で、俺と武そして沢田という異質な組み合わせで下校することになった。うん、獄寺とか長谷川からの視線がなかなかに痛いからさっさと学校を出ようそうしよう。視線で殺される無理。俺はマフィア2人から同時にやばい視線向けられて平気でいられるほどメンタル強くないんで。

さっさと帰ろうという意味も込めて武の腕を掴んで足早に学校を立ち去ってからしばらく経過し、自宅隣もとい沢田家にやってきた。これで家に上がるのは2回目かねえ……。前回はリボーンがいない分平和だった。

「ただいまー」
「お邪魔します」
「どもっス」

沢田を先頭に玄関に入る。扉が開き、そして――

「チャオっす」
「ちょっと用事思い出したから帰るわ」
「霜月さん!?」

即行で踵を返した。

いやだってさ、出迎える気満々でそこにリボーンが立ってたらそりゃ帰りたくなるでしょ。ツナがついた嘘ぶち壊す気満々でそこにリボーンが立ってたらそりゃ帰りたくなるでしょ。

「お前が霜月要だな」
「なあ沢田、俺は奈々さんに呼ばれお茶しに来たんだよな? どうして俺は見ず知らずの赤ん坊に手錠をかけられてまで帰宅を阻止されてるんだオイ沢田ァッ!!」
「ひいぃっ! ご、ごめんなさいぃっ!!」

閑話休題。

手錠から逃れてようやく手が自由になった俺は黙々と奈々さんが出してくれた煎餅を食べていた。リボーンが話しかけてくるのも沢田が謝ってくるのも武が宥めようとしてくるのもオール無視。つーか食ってる間は話しかけてくんなバァカ。

「で、お前がリボーンって奴で、前に沢田が相談してきた赤ん坊か?」

お茶を飲んで一息ついたところで一先ずは話を聞くことにした。聞いたところで断る結果は変わらんのだがな。

「初対面で手錠をかけてきた辺りは確かに普通の赤ん坊じゃねえわな」
「俺は殺し屋だからな、造作もないゾ」
「ごっこ遊びは他所でやれ。少なくとも俺は関係ねえだろ」

わざとらしく呆れた口調で告げる。

「関係なくねえぞ。お前もツナのファミリー候補だからな」
「マフィアと関わる気も更々ねえからな」

その時、リボーンが僅かに反応した。読心術もない俺にはそれがどんな感情かは知る由もない。

「なんでマフィアだと思った」
「簡単な話だ。お前はさっき自分を殺し屋だと言い、その上で沢田のファミリーがどうのと言った。殺し屋ってのは言わずと知れた裏稼業だ。そこにファミリーって言葉が加わればその意味は家族範囲ではなく仲間範囲であることは安易に予想がつく。日本のヤクザなら言い方は“組”であり“ファミリー”とは呼ばない、さらに言えばリボーンの日本語は流暢だが僅かにイタリア訛りが混じっている。ここから推測できるのはリボーンはイタリアンマフィアに関係する奴で沢田はそのファミリーとやらの頭もしくはそれに準ずる立場の人間に値する。そこに俺を引きずり込もうって魂胆か?」
「すげぇ、さすが学年1位……」

沢田がなんかボヤいてるが今はどうでもいいや。

正直に言うとこの手の話はどの程度知ってることにするかだいぶ悩んだ。知りすぎるのは一般人として不自然だし、かと言って知らなすぎるのは天才を自称する俺としてはいただけない。だがリボーンがいい感じにヒントになり得るものを口にしてくれたおかげでさも推理したかのように振る舞うことが出来た。もし原作を知らない状態だとしても俺の知力ならここまでの推理は余裕だろう。

「で、なんで俺なわけ?」

ぶっちゃけ俺としてはこれが本題。いつかは目をつけられるだろうとは思っていたけど果たして何に対して目をつけられたものか予想もつかない。武のように運動ができるわけでなく、笹川了平のように一直線に走っていけるわけでもない。頭脳担当なら獄寺と長谷川がいるだろう。

「山本の自殺を阻止したのはお前らしいな」
「曲解すんなよ。俺は文句を言っただけであって自殺を止めたのは武の意思だ」
「ツナたちが退学になりそうだった時も手を回してくれたらしいな」
「偶然だ。俺が個人的に根津が気に入らなかったから退職に追い込んだだけに過ぎない」
「やちるもお前のこと気にかけてるぞ」
「……あ゛?」

平然と答えていくつもりだったのに、最後の言葉で何かが切れた。今なんて言った。長谷川が、何だって?

「俺の前でその名前を口にするな。虫唾が走る」

感情が一気に冷めるのが自分でもわかる。

「帰らせてもらう」
「あっ霜月さん!」
「もう二度と俺に関わるな」

考えるよりも先に出た言葉は何よりの本心だった。仲良くなってくれた武には申し訳なく思う気持ちもあるが、心の底から、誰にも関わって欲しくなかった。嫌われ上等。俺はそうして今まで生きてきたんだ、何も思うことはない。

何か言いたげな沢田たちを放って、俺は自宅へと帰った。

†‡†‡†‡†‡†‡

一方で沢田家に残された面々。

「ほらな、ダメだっただろ!」

要が出て行ってしまったのを無言で見送った直後にそう叫んだのはツナだった。

「お前のせいで確実に嫌われた……。お隣さんだからせめてトラブルだけは避けたかったのになんてことしてくれんだよ!」
「まーまー落ち着けってツナ」
「何でよりによって霜月さんなんだよ。リボーンは知らないかもしれないけどさ、霜月さんとやちるちゃんって仲悪いんだからね」
「ん、そーなのか?」

掴みかかる勢いのツナに間の抜けた返事をしたのは、誰よりも近いはずの山本だった。いつの間にか親友という立場を獲得していた山本ですら気づいていなかったという事実に、今度はツナの方が間の抜けた声を上げてしまった。

「だ、だって、やちるちゃんに声をかけられた時とかちょっと視界に入った時とかの霜月さん、ものすごく怖い顔してるというか機嫌悪いし」
「ツナ、お前そんなに霜月のこと見てるのか。京子並だな」
「なっ!?」

何を言ってるんだとキレそうになるが事実でもあるので否定出来ない。尤も、彼が要のことを見ているのは好意とはもっと別の理由ではあるが、それでも自然と視界のどこかで彼女を見てしまうのは机が隣同士という理由だけではないのだろう。

もしかしたらその理由にリボーンは気づいているのかもしれないが、それもまた別の話である。

「そう言えばツナ、なんで霜月って学ランなんだ?」
「なんでって、風紀委員だからね」

つい数日前からブレザーでなくなった要の姿はかなり強烈だった。ただでさえ濃いキャラをしているというのに、と思いつつも大爆笑していた担任のことを思い出すと少しばかり思い出し笑いをしてしまうツナだった。

元から他人と関わろうとするような人ではなかったけど風紀委員に入ったことで余計に牽制されてるし自分もしているよな、とツナは思っていた。対して山本はと言うと、学ランも似合ってるなーとか女なのがもったいないよなーとか呑気に考えておりツナの悩みなどつゆ知らずであった。

「そう言えば要に風紀委員に入った理由聞いてみたんだけどさ、委員長に脅されたとか気に入られたとかって愚痴ってたぜ」
「んなー!? あの人何したのー!?」
「さあ?」

あの日の屋上での戦闘のことなど彼らに知る由もないのである。

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